『文化と国家』新装版刊行に寄せて 2007年1月21日

 1945年から1951年にかけて東京大学総長の座にあった南原繁は、安田講堂の演壇からほぼ月1回の割合で、人々にこの時代をどう捉え、どう生き抜き、日本をどのような国家として再建していくべきかを語り続けた。
 毎年それらの演説・演述が1冊の小冊子にまとめられた。それが人の手から手へ渡り、読み継がれていった。それはあの苦難の時代を生き抜かんと苦闘しつつあった人々を導く最も有効な指針となった。
 「祖国を興すもの」「人間革命」「真理の闘い」「平和の宣言」「大学の自由」のタイトルで出版された小冊子5年分を1冊にまとめたものが、『文化と国家』である。この本の中に盛られた南原の言葉こそ、戦後日本を精神的に再起させた言葉である。ここで語られた基礎的なものの見方、時代の捉え方、世界把握、人間観、社会観が、戦後日本の精神的礎石そのものとなった。
 戦後日本の原点を知ろうと思うなら、本書を二読三読するにこしたことはない。
 日本という国家は、一時偏狭な民族主義者の支配下に置かれ、国家存亡の淵に追い込まれた。しかし、廃墟の中からいま一度起ち上がり、新しい国民精神のもとに国家を再建せよと南原は呼びかけた。
   

この新たな意義において真の「国民的」なもの、あるいは「祖国愛」の高唱せらるべき必要、けだし今日のごときはないであろう。わが民族は過誤を犯したとはいえ、われわれはこの民族のなかに生まれ来たりたるを喜び、この民族を限りなく愛する。それ故にこそ、われわれは民族を自ら鞭ち、その名誉を世界の前に回復しようとするのである。(「新日本文化の創造」より)

 戦後日本を否定し、日本を再び偏狭な民族主義の支配下に置こうとして「国民的」なものと「祖国愛」を高唱する人々が群れをなして現れはじめた今日、南原の言葉をいま一度、熟読玩味するべきである。

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